「イスラム教」と聞いたら、中東を思い浮かべますが、
実は1番イスラム教徒が多い国は「インドネシア」。
約2億7100万人いる人口の9割近くがイスラム教徒です。
今回は、そんな「イスラム教」について紹介していきます。
そもそも「イスラム教」って!?
イスラム教とは、アッラー(唯一神)が天地を創造し、人類を平等に導くと信じる宗教です。神(唯一神)のことをアラビア語でアッラーと呼びます。
イスラム教の開祖はメッカ(マッカ)の商人、ムハンマドです。アッラーがムハンマドに下した啓示の言葉を集めた書がコーラン(正式にはクルアーン)です。クルアーンは全部で114章あります。
ただ、ムハンマドが活躍していた時代にはクルアーンは書物の形になっていなかったので、ムハンマドの死後、弟子たちが伝えられた章句を書物の形にまとめました。
「クルアーン」は「詠まれるもの」という意味で、実際に声に出すことで、クルアーンを読んだことになります。
また、
現在、いろいろな言語で「クルアーン」が翻訳されていますが、「アラビア語」で読むことが重要で、それ以外の言語で読んでも真の意味で読んだことにはなりません。
インドネシアの他にイスラム人口が多い国として、
パキスタン、インド、バングラデシュ、エジプト、ナイジェリアなどが挙げられます。
「インドネシア」と「イスラム教」
世界にはいろいろな宗教があり、さまざまな教えがありますが、
信者が何をするのかというのは、基本的に単純です。
教会やお寺に行ってお祈りをしたり、経典を読んだりして自分を戒めます。
ただ、イスラム教はこれを明確に整理しており、
信じる項目については六信、実践すべき項目については五行としてまとめています。
また、クルアーンの教えをもとに作られたイスラム法(シャーリア)という法体系も持っています。
●六信
その存在を信じることが義務とされる6種の存在。
①アッラー(唯一神)
天地を創造した唯一絶対の神。ユダヤ教やキリスト教の神と同じ存在を指す。
②天使
霊的な存在。使徒とアッラーをつなぐ役目を持つ。
ムハンマドは大天使ガブリエル(ジブリール)によって神の言葉を啓示された。
③預言者(使徒)
人々とアッラーをつなぐ役目を持つ。
代表的な預言者は、ユダヤ教のアダム、ノア、モーセ、ダビデ、キリスト教のイエスなど。クルアーンを授かったムハンマドは最後の預言者。
④啓典
アッラーからの啓示をまとめた書物。
ムハンマドに啓示されたクルアーンのほか、モーセの律法の書、ダビデの詩篇、イエスの福音書など先行宗教の聖書も含む。
⑤来世
現世が終わって、神が「最後の審判」を下したあとに向かうべき天国(楽園)もしくは地獄(火獄)。生前の善行・悪行によって審判が下される。
⑥定命
人間の運命があらかじめ神によって決定されているということ。
ただ、「人間に自由意志はないのか」と批判もあるため、現在においても神学者たちの重要な議論のテーマである。
●五行
アッラーへの帰依者が帰依者であるために行う5つの実践項目。
①信仰告白(シャハーダ)
入信の際に章句を唱えること。
「ラー・イラーハ・イッラッラー(アッラー以外に神はない)」
「ムハンマド・ラスールッラー(ムハンマドはアッラーの使徒である)」という2つの言葉で神と預言者に対する態度を表明する。
②礼拝(サラート)
1暁から日の出
2正午過ぎ
3午後
4日没
5夜
1日5回それぞれおよそ5分。
メッカの方角に向かって、各自の都合がいい時に家や職場で礼拝する。
③喜捨(ザカート)
その年に所有した財産から一定額を支払う。集められたお金(喜捨)は貧者、困窮者、寡婦や孤児などのために使われる。
④断食(サウム)
イスラム歴の断食月(ラマダーン)の1か月間、日中の飲食を禁止する。
日没後は食べてもよく、病人などは行わなくてもいい。
⑤(メッカへの)巡礼(ハッジ)
イスラム歴の巡礼月(ズー・アル・ヒッジャ)の上旬から中旬にかけて行われる。
メッカへの旅費、移動も大変であるので、この巡礼を行うのは財力や体力がある者だけである。
知っておくべきこと
上記の六信五行を通して、特に私たちがインドネシアに行ったときに気をつけるべきこと、ムスリムに対して心がけることをお伝えします。
※自分の経験も含め。
・1日5回の礼拝
大事な仕事の会議のとき、食事のとき、
「ちょっとお祈りに失礼します」と退席してしまうケースがよくあります。
「なんて身勝手な人!」と思わず、彼らにとってお祈りは重要なものということを理解する必要があります。
・左手は不浄
握手するときや何かものを渡すときは右手を使うことを意識したほうがいいです。
左手は用便をするときなどに使用するため不浄の手とされています。
・豚は食べない、お酒はダメ
豚肉はムスリムにとってハラーム(禁止)食品です。ごはんに行くときに配慮が必要です。また、お酒(アルコール)もハラームなのでお土産などにも注意が必要です。
インドネシアでよく目にする光景
・喜捨の精神
インドネシアに行くと、一般市民が路上で物乞いをしている貧しい人たちへお金をあげているのをを目にすることがあるかもしれません。お金持ちではなくごくごく普通の市民がです。これはまさしく五行の1つ「喜捨(ザカート)」です。お金に対する貪欲を戒め、貧しい人たちへの慈悲の心を持て、ということです。
この喜捨におそらく関係しているであろう私の経験談を話します。
ある時、学校の先生みんなでご飯を食べに行ったことがありました。
校長先生が全員分の支払いを済ましてくれて、私は「ありがとうございます」とお礼を言いました。
しかし、他の先生はだれ1人お礼を言いません。
現地日本語教師の友人に聞くと、「これはザカードです」と言いました。
つまり、「豊かな人がごちそうする」というのが通常のことだそうです。
そして、それに対してお礼をする人もほとんどいません。
先ほどの一般市民が貧しい人にお金を差し出す行為と変わらないのです。
面白いな、と思いました。
もし、インドネシアに行って、ムスリムの人に食事をおごった際、何のお礼がなくても
「不愛想なやつだ」と思わず、「喜捨だ」と思ったほうがいいかもしれません。
政治とイスラム教
インドネシアはイスラム教に熱心な国ですが、政治と宗教はしっかり離れています。
いわゆる政教分離です。
中東のイスラム国家は、下記の図のように政治と宗教が一体化しています。
しかし、インドネシアは政治と宗教は分離しています。
確かに、現在のインドネシアにもいくつかのイスラム政党はありますし、
以前は欧米諸国などから「イスラム国家の民主化は難しい」と思われてきました。
しかし、2004年の国民直接投票による大統領選をもって、世界最多のイスラム教徒を誇るインドネシアは民主化に成功しました。
これは、「民主主義」と「イスラム教」の共生を意味します。
そもそもインドネシアは「イスラム教」を「国教」と定めていません。
何度も言いますが、世界最多のイスラム教徒がいるにも関わらず、「さまざまな宗教との共存」を重視しました。
インドネシアの国是「建国五原則(パンチャシラ)」では、
①イスラム教
キリスト教(②プロテスタント、③カトリック)
④ヒンドゥー教
⑤仏教
⑥儒教
の6つを国家公認の宗教と定めています。
これは、まさにインドネシアの国章に掲げられている「多様性の中の統一」を表しています。
変わりつつあるインドネシアのイスラム教
イスラムの教えには「女性は髪の毛を隠し、肌の露出を避けるべき」とあります。
私たちも「ムスリムの女性と言えば、スカーフを巻いている」と容易にイメージできます。
しかし、現在はどうでしょうか。
インドネシアの人気アイドルグループ「JKT48」はスカーフを被っていませんし、ミニスカートでよく歌っています。また、ジャカルタなどの都市部に行けば肌を露出した女性を見かけることも多々あります。
以前に比べ教えを守ることに厳格ではなく、大いに受け入れられるようになったと感じます。
※Wikipediaより引用(JKT48)
他にも
「ラマダーン」の時期であっても食べる人がいたり
お酒を飲む人がいたり
1日5回のお祈りを守らない人もいます。
私が滞在していたときも実際にそんな人たちがいました。
信仰熱心な人もいればいない人もいる。
ただ、これは一概に「乱れてきている」とは言えず、近年の経済発展と都市化、ネット文化の浸透などにより「時代の変化に適用している」とも捉えることができます。
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