後ほど連絡させていただきます。
来週の研修日程を一部変更させていただきます。
させていただく
ビジネスシーンでよく使うこの言葉。
今回はこの「させていただく」という言葉についてお伝えしていきます。
「させていただく」とは?
最初に「させていただく」の構造をみていきましょう。
使役の助動詞「させて」+もらうの謙譲語「いただく」
が合わさった謙譲表現です。
※「使役」とは、他人にその動作を行なわせることを示す語法のこと。
「謙譲」とは、へりくだりゆずること。また、そのさま。
精選版 日本国語大辞典より引用
「私が勝手にする」のではなく、
「あなたが私にさせ、その許可(私がする動作の許可)をいただく」というのがこの表現の本質で、
シンプルに言うと、
「相手のこと考慮しながら、自分の動作を行う」という意味を持つ表現です。
「させていただく」は二重敬語か?
上の構造を見ていただいたら分かる通り、二重敬語ではありません。
二重敬語とは一つの語について同じ種類の敬語を二重に使ったものです。
代表的な例を言えば、「おっしゃられる」です。
「部長がおっしゃられた」などビジネス場面でもよく耳にします。
言うの尊敬語「おっしゃる」にさらに尊敬の助動詞「られる」が重なり、二重敬語となります。
ここでは「部長がおっしゃった」と言うのが適切です。
「させていただく」は使役の助動詞+謙譲語なので、
二重敬語ではなく、適切な謙譲表現です。
場面が大事!「させていただく」の正しい使い方。
文化庁の敬語の指針では、
「(お・ご)……(さ)せて ( いただく)」といった敬語の形式は,基本的には,自分
側が行うことを,ア)相手側又は第三者の許可を受けて行い,イ)そのことで恩恵を
受けるという事実や気持ちのある場合に使われる。
とされています。
簡単に言うと、
「させていただく」は、相手の許可を得て行い、自分にも都合の良いことがあるときにのみ使うことができます。
「ちょっとまだ何言っているのか分からないです」
と思った方もいると思うので、
例を見ながら、場面を確認しましょう。
「後日改めて連絡させていただきます」
この記事の一番最初に書いた例文です。
まず、相手の許可が必要、というのはOKですね!
この言葉を言わないと、
「えっ!連絡こないんだけど。無視されてる?」
と相手が不安になりますから。
次に、自分にも都合の良い、というのもOKですね!
今は連絡できませんから。後日なら良い。
「来週の研修日程を一部変更させていただきます」
この文も、相手の許可が必要、というのはOKです!
この言葉を言わないと、
「えっ、何で勝手に日程変更したの?」
後からクレームがくる可能性があります。
次に、自分にも都合の良い、というのもOKですね!
自分(ら)の都合により、日程を変更しますから。
この2つの例文から分かる通り、
「させていただく」は
相手の許可を得て行い、自分にも都合の良いことがあるときにのみ使うことができる
表現です。
間違った使い方の例
これから、間違った使い方の例を見ていきましょう。
①
会社のプレゼンテーションなどで
「今から企画案を発表させていただきます」
「どうして君は勝手に発表するんだ?」などと言う人はいないと思うので、相手の許可は必要ありません。
「今から企画案を発表いたします」と言うのが良いと思います。
「本日、MCをさせていただきます」なども同じですね。
②
飲食店の張り紙などで
「2月1日から2月10日まで休業させていただきます」
これも①同様、自分の店を休業するのに相手の許可は必要ありません。
「お客さん」はたくさんいて、ひとくくりにできないので、「誰に許可とるの?」ってなります。
「2月1日から2月10日まで休業いたします」と言うのが良いと思います。
どうして「させていただく」を使ってしまうのか。
上に述べた例文しかり、
「初めて甲子園に出場させていただきました」
「俳優をさせていただいています」
「〇〇(アイドルグループ名)を卒業させていただきます」
「この度、結婚させていただきました、」
など多くの場面で耳にします。
どうして
相手の許可が別に必要ではなく、自分が一方的に行うことにも
「させていただく」を使ってしまうのか。
シンプルに
丁寧に聞こえるから。
だと思います。
確かに、
「今から資料を配ります」と言うよりも
「今から資料を配らせていただきます」と言うほうが聞こえは良いかもしれません。
もちろん、ここでも相手の許可はいらないので、「配らせていただきます」という必要はありません。
また、文化的な側面も関係していると思います。
日本は謙遜する文化があり、へりくだることは美徳とされています。
「それほどでも」
「いやいや、運が良かっただけですよ」
「チームのおかげです」
テレビでもよく耳にするセリフです。
「自分におごらない」「相手を立てる」ことは
日本人として素敵なことだと私は思います。
ただ、
全ての場面で
へりくだる
必要はありません。
先ほどあげた例文です。↓
「初めて大会に出場させていただきました」
「俳優をさせていただいています」
「〇〇(アイドルグループ名)を卒業させていただきます」
「この度、結婚させていただきました、」
どの例文も相手の許可は必要ありません。自分の力や自分の意志でした行為です。
ただ、
「こっちのほうが丁寧だから」という思い、
そして、
文脈の裏に誰かへの配慮であったり、誰かを立てたりと、へりくだる要因があり、
「させていただく」という表現を使ってしまうのかもしれません。
させていただく
広い範囲で「させていただく」の使用が増えてきたことから、
「間違いですよ!」と言えなくなってきているのが現実。
「日本語の乱れ」と捉えるか。
「日本語の変化」と捉えるか。
どちらにせよ、
本来の正しい使い方を知っている
ということが大切です。