「う~ん。どんな教科書を使って教えようか」
教科書選びはとても悩みます。
日本語教育業界で定番の教科書と言えば「みんなの日本語」。
国内外問わず多くの日本語学校で採用されており、ヒューマンアカデミーといった日本語教師養成講座でも使用されています。圧倒的シェア率ですね。
ただ、今回は「みんなの日本語」ではなく、コミュニケーションに重点を置いたある教科書について述べたいと思います。
その教科書とは、、
リアルなコミュニケーションを!「まるごと」
概要
「まるごと 日本のことばと文化」
●初版:2013年(「入門」出版)
●編著者:独立行政法人国際交流基金(ジャパンファウンデーション)
●まるごとシリーズ:「入門」「初級1」「初級2」「初中級」「中級1」「中級2」とレベル別に分けられている
●海外版:韓国、インドネシア、タイ、フィリピン、ベトナム、マレーシア、インド、ペルーといった国々で出版
●学習方法:「かつどう」と「りかい」の2つの教材があり、9トピックずつ学習
●学習時間:授業時間の目安は1課あたり120分(入門レベル)
JF日本語教育スタンダード
「まるごと」はJF日本語教育スタンダードの6段階でレベルを表しています。
※JF日本語教育スタンダード「利用者のためのガイドブック」より画像引用。
●まるごとのレベル
「入門」→A1
「初級1」「初級2」→A2/B1
「初中級」→B1
「中級1」「中級2」→B1
・A1レベル
具体的な欲求を満足させるための、よく使われる日常的表現と基本的な言い回しは理解し、用いることもできる。自分や他人を紹介することができ、どこに住んでいるか、誰と知り合いか、持ち物などの個人的情報について、質問をしたり、答えたりできる。もし、相手がゆっくり、はっきりと話して、助け船を出してくれるなら簡単なやり取りをすることができる。※JF日本語教育スタンダードより引用
・A2レベル
ごく基本的な個人情報や家族情報、買い物、地元の地理、仕事など、直接的関係がある領域に関する、よく使われる表現が理解できる。簡単で日常的な範囲なら、身近で日常の事柄についての情報交換に応じることができる。自分の背景や身の回りの状況や、直接的な必要性のある領域の事柄を簡単な言葉で説明できる。※JF日本語教育スタンダードより引用
・B1レベル
仕事、学校、娯楽で普段出会うような身近な話題について、標準的な話し方であれば主要点を理解できる。その言葉が話されている地域を旅行しているときに起こりそうな、たいていの事態に対処することができる。身近で個人的にも関心のある話題について、単純な方法で結びつけられた、脈絡のあるテクストを作ることができる。経験、出来事、夢、希望、野心を説明し、意見や計画の理由、説明を短く述べることができる。※JF日本語教育スタンダードより引用
「かつどう」と「りかい」
「まるごと」は日本語を使ってコミュニケーションができるようになるために、
「かつどう」
と
「りかい」
の2つの学習方法があります。
・かつどう
日常場面でのコミュニケーションの実践力をつけることが目標。日本語をたくさん聞き、話す練習をする。
・りかい
コミュニケーションのために必要な日本語のしくみについて学ぶことが目標。コミュニケーションの中で日本語がどう使われるか、体系的に学ぶ。
「かつどう」と「りかい」はどちらも9トピックずつあり、同じトピックで書かれています。
「かつどう」の教材だけで、「りかい」の教材だけで学ぶこともできますが、両方で学ぶことにより、総合的な日本語力を身につけることができます。
それぞれの特徴をイラストにまとめてみました。
簡単にまとめると、
まず、「かつどう」の教材で、聴解(インプット)→発話(アウトプット)の練習をします。
このとき、文法はさらりと教え、深入りしません。
次に、「りかい」で文法、語彙を体系的に学び(さらにインプット)、「読解」「作文」も加え、総合的に日本語を学びます。
「まるごと」と「みんなの日本語」を比較
日本語教育業界で圧倒的シェアを誇る教材「みんなの日本語」とどのような違いがあるのか見ていきましょう。
まず、押さえておきたいのがシラバスの違い。
シラバスとは、教授項目を選び出して集めたもの。また、その選定をシラバス・デザインと言います。
「みんなの日本語」は文型(構造)シラバスです。
文型(構造)シラバスとは学習者に必要な文型・文法・語彙の観点から整理されたものです。
「まるごと」は場面シラバスです。JF(ジャパンファウンデーション)に則って言うとCanDoシラバスです。
場面シラバスとは学習者がコミュニケーション上、必要である場面での表現や語彙を集め、効率的に与えるものです。
みんなの日本語が文型シラバスでまるごとがCanDoシラバス。
この違いを意識してそれぞれの特徴の違いを見ていきます。
まるごと第7課のトピックは「いえ」です。
登場する文法は「~あります/います」「~すんでいます」「<形容詞>いです/くないです」など様々です。
学習するCanDoも文法も語彙もすべて「いえ」に関するものばかりです。
対して、みんなの日本語第11課は「~あります/います」の文型を網羅的に習得しようという狙いが感じられます。
登場する語彙は、文型習得のために使えるもので、ジャンルは統一されていません。
教科書の作りも面白いです。
まるごとはカラー写真やイラストがたくさんあり、使われている文字はひらがなとカタカナが多く、漢字はほとんどありません(入門A1)。
「聞いて話しましょう」「聞きましょう」「話しましょう」など各パートに分かれており、学習者にそこで「何をさせるか」が明確です。
また、トピックの最後のページには「日本の生活と文化」に関する情報が載っています。
みんなの日本語は全体的に白黒で作られています。こちらも文型、例文、会話、練習といった各パートに分かれていますが、具体的に学習者に「何をさせるか」は示されていません。教師がイラストやフラッシュカードなどの補助教材を用意し、各課に応じた練習方法を考えます。そのぶん、「まるごと」に比べて「教え方の手引き」「問題集」「イラスト集」「会話DVD」といった授業作りをサポートする教材は豊富にあります。
まとめ
私も「まるごと」を使って授業をする機会がありました。
まだまだ浅はかではありますが、実際やってみた感想として、
・みんなの日本語に比べて授業準備の負担が少ない
・学習者に発話させる時間が多い
・未習語彙、文法はまず「推測」させる
・ペアワーク、グループワークが多い
・先生はあくまでサポートする役割
・時間配分をより細かく意識する必要がある
※私自身の主観です
この他にもまだたくさんの「まるごと」の特徴、長所、短所があると思います。
「こういう特徴もありますよ」「こういう教え方がありますよ」
みなさんの意見もお待ちしています!情報共有しましょう。
今回もご覧いただきありがとうございました!
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